同じ話を繰り返す利用者様を安心させる対応5選

日々のケアの中で、
利用者様が同じ話を何度もされることに、
戸惑ったり、忙しさからつい「さっき聞きましたよ」
と言ってしまいそうになったりすることはありませんか?

認知症の進行により短期記憶が乏しくなると、
直前の出来事を覚えていられず、
不安から確認のために同じ話を繰り返したり、
記憶に強く残っている話を繰り返してしまうことがあります。

今回は、
現場で効果があった、
認知症を患う利用者様を
否定せずに安心させるための
具体的な対応法と声かけを5つご紹介します。

利用者様の基本情報

まずは、
今回の対応を検討するにあたっての
利用者様の基本情報を共有しておきましょう。

利用者様名:A様
年齢:85歳
性別:女性
既往歴:アルツハイマー型認知症(中症程度)
症状:短期記憶が乏しく同じ話を繰り返す
性格:穏やかで、お話好き


実例1:話の「中身」ではなく「感情」に注目する

利用者様は、
話の内容そのものよりも、
「誰かに話を聞いてほしい」「不安を解消したい」
という感情に動機づけられていることがほとんどです。

・失敗例(心の中で)
「またこの話か…」
とイライラを隠せない。

・成功対応
「そうでしたか!その時は嬉しかったんですね
と、話の結末や感情に共感を示す。

・効果の理由
内容を訂正せず、傾聴の姿勢を見せることで
「話を聞いてもらえた」という
満足感を得て、不安が解消されやすい。

実例2:繰り返しの「キーワード」で話題を広げる

全く同じ話の繰り返しを避けるため、
話の中に出てきたキーワードを拾って、
別の話題へと自然に誘導します。

・失敗例(心の中で)
「もういい加減にしてほしい」
と遮ってしまう。

・成功対応
A様:「娘とね、両行に行ったのよ」
⇒「旅行ですか!どこに行かれたんですか?
  「今までで一番楽しかった旅行はなんですか?」
  「もう一度行くなら、どこに行きたいですか?」

・効果の理由
繰り返しを許容しつつ、
キーワードから会話を深堀することで、
新しい刺激を与え、記憶を探る楽しさに変える。

認知症ケアの方法の1つに
回想法があります。

繰り返しのキーワードから
自然とその方向に持っていくことで、
脳の活性化にも役立ちます。

実例3:「記録」を活用し、毎回同じリアクションを避ける


穏やかな利用者様でも、
毎回全く同じ返答をされると
「この人は私の話を聞いていない」と
感じる場合があります。

小さな違いを見せて、
真摯に聞いている姿勢を伝えましょう。

・失敗例(心の中で)
毎回「へぇ、すごいですね」と
抽象的な返事をする。

・成功対応
「もしかして、その時って○○でしたか?」
A様:「えっ、なんで知ってるの!?」

・効果の理由
このような会話は
利用者様の驚きという感情を動かします。

もし、「前に話したかしら?」
と聞かれたら
「実は…」と
過去の話をちゃんと覚えていることを伝え、
安心感を与えるとともに、
介護職員がちゃんと話を聞いていることを示せます。

実例4:「忙しい」時は時間を区切って伝える

どうしても手が離せない時、
話を遮るのは失礼です。

正直に状況を伝え、
傾聴の時間を約束することで、
利用者様の気持ちを尊重します。

・失敗例
「今は忙しいので後で」
と、冷たくあしらう

・成功対応
「お話をお聞きしたいのですが、
今から5分だけお食事の準備をさせていただけますか?
5分後に必ずこちらに戻ってきて、
続きをお伺いします。」

・効果の理由
今は話を聞けない理由を伝え
「必ず戻る」ことを明確に約束することで
放置されたという不安感を与えずに
一旦待ってもらうことができます。

※約束は必ず守りましょう。

実例5:「別の活動」で意識を切り替える

不安や退屈から同じ話を繰り返している場合、
物理的に意識を切り替える活動を促すことで、
訴えが軽減することがあります。

・失敗例
同じ話を終わらせようとせずに
聞き続けてしまう。

・成功対応
「私もちょうど休憩なので
一緒に窓際でお茶を飲みませんか?」

・効果の理由
場所や動作を変えることで、
脳内の情報をリセットし、
気分転換を促すことができる。

穏やかな方には特に効果的。


まとめ

同じ話の繰り返しは、
認知症の方にとって
不安の訴え」や「記憶の確認」の行動です。

大切なのは、
内容を訂正することではなく、
その都度「安心感」を提供することです。

A様のような穏やかな方の場合は
その性格を活かし、
上記のような声かけと対応で、
より質の高い、優しいケアを目指しましょう。

この記事を書いた人

藤倉 健太のアバター 藤倉 健太 日本高齢者QOL学会 理事

・了德寺大学健康科学部整復医療トレーナー学科卒業
・柔道整復師/健康運動指導士/中学•高等学校教員免許
介護施設でのリハビリ(機能訓練)や体操指導を中心に、0〜106歳までの方々の健康を支えてきました。日本高齢者QOL学会の理事として、巷に溢れる健康情報を論文ベースにわかりやすく伝えていきます。

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