転倒リスクが高いのに自ら移動する利用者様への対応5選

みなさんの施設では
ふらつきがあり、転倒リスクが高いのに
自ら動いてトイレなどに行こうとする
利用者様はいませんか?

そんな時は
どのように対応していますか?

特に
せっかちでトイレが近い
利用者様への対応には
気を使うと思います。

今回は、
転倒リスクが高い利用者様の
「自分でやりたい」という気持ちと、
「骨折の危険性」という現実を
両立させるための、
具体的な対応を5つご紹介します。

利用者様の基本情報

まずは、
今回の対応を検討するにあたっての
利用者様の基本情報を共有しておきましょう。

利用者様名:K様

年齢:94歳

性別:女性

既往歴:認知症(年相応)、腰部圧迫骨折
    大腿骨頸部骨折(オペ済み)
    廃用症候群、骨粗鬆症

性格:せっかち、穏やか

課題:足腰が弱っており、ふらつきがある。
   トイレが近く、介助を待たずに
   自ら移動する。 転倒リスクが高い。

【課題に対する要因分析】
K様のせっかちな性格と、
トイレが近いという要因が合わさることで、
「早くいかなくちゃ」という焦りが生まれ
介助を待つ余裕がなくなってしまいます。

他にも、
以下のようなリスクと要因がります。

  1. 廃用症候群と筋力低下
    骨折の手術や安静により足腰が弱り、
    ふらつきが起きやすくなっている。
  2. せっかちな性格と排泄の切迫感
    「間に合わないかもしれない」という
    強い焦りが、介助を待つ判断力を奪っている。
  3. 骨粗鬆症による危険性
    転倒=骨折という、
    命に関わるレベルの危険性がある。

目次

1. 転倒リスクを軽減し、尊厳を守る実践的対応5選

実例1:「せっかち」な性格に対応する迅速なアクション

K様が自ら立ち上がる前に
介助を開始するためには、
職員がK様の動き出しよりも早く
動く必要があります。

「待たせる時間」を極力なくすことが、
事故を防ぐ鍵です。

  1. 声かけの簡略化
    K様が立ち上がろうとするサイン
    (前のめりになる、足を動かすなど)を
    見たら長い声かけは不要です。

    はい!行きましょう!」と一言で返し、
    すぐに介助を始めましょう。
  2. 距離の短縮
    K様の席の最も近い位置に常に待機するか、
    または移動補助具(歩行器など)を
    K様が手を伸ばしやすい位置に配置し、
    動作の初動をスムーズに
    支えられるようにします。
  3. スピードを意識
    介助中の動作は、
    乱暴にならない範囲で最大限に早く行います。

    K様のせっかちなペースを
    否定するのではなく、
    それに合わせて介助のスピードを
    調整することで、焦りを軽減させます。

実例2:「定時排泄」と「水分調整」による予防的なアプローチ

トイレへの切迫感を減らすことができれば、
自発的な危険な移動を
大幅に減らすことができます。

排泄介助は受動的ではなく、
能動的に行いましょう。

  1. 定時の声かけ
    K様がトイレに行きたいと感じる前に
    定時(例:食後30分、2時間ごとなど)で
    排泄への声かけを行います。

    「お手洗いはいかがですか?」
    「今、行きませんか?」と促し、
    排泄パターンを崩さないようにしましょう。
  2. 水分摂取の計画
    水分補給は重要ですが、
    一度に多量の水分を摂取すると
    トイレが近くなります。

    少しずつ、こまめに
    水分を摂っていただくよう、
    摂取パターンを管理しましょう。
  3. 誘導語の工夫
    排泄への誘導を、
    「お手洗いの時間ですよ」ではなく
    リハビリを兼ねて歩きませんか」など、
    泄目的をぼかした声かけにし、
    尊厳を守りながら促しましょう。

実例3:「声」や「音」によるプレッシャーセンサーの活用

K様が無言で立ち上がろうとするのを防ぐため、
「何かあればすぐに知らせる」という習慣を
身につけてもらうための環境設定を行います。

  1. ナースコール利用の訓練
    立ち上がる前にナースコールを押す練習を、
    リハビリの一環として行います。

    「立ちたい時は、
    まずこれを押す練習からしましょう」と、
    安全を守るための役割を与えて
    協力を促します。
  2. センサーの活用
    K様が自分で立ち上がろうとする際、
    立ち上がり時に音が鳴るセンサーを設置し、
    職員がすぐに察知できる仕組みを作ります。
  3. 立ち上がり時の声かけ訓練
    K様が立ち上がろうとしたら、
    職員が反射的に「待って!」と制止する
    のではなく、
    大丈夫ですか?」「お手伝いしますよ!
    という肯定的な声かけを統一し、
    K様を驚かせないようにします。

実例4:頻回な排泄を「安全な役割」に変換する

あまりに頻回な排泄は、
転倒リスクも伴い、介助者の負担にもなります。

安全な役割や活動を行ってもらうことによって、
「トイレ」という意識を
そらせることができます。

  1. 軽作業への誘導
    塗り絵や制作物に取り組んでいただいたり、
    洗濯物を畳むなどの作業へ誘導します。
  2. 立ち上がりを中断させない
    立ち上がりの途中で制止されると、
    ストレスに繋がる可能性があります。

    中途半端な姿勢で止めず、
    「安全に立つ」ことまで一旦介助し、
    立位が安定してから声掛けなどを行います。

実例5:移動そのものを「リハビリ」と位置づけ

K様の移動を「訓練をしている」という
位置づけに変えてみます。

リハビリ職と連携して、
足腰を鍛える機会として介助を行います。

  1. リハビリの一環と説明
    介助のたびに、
    「これは歩行訓練ですね」
    「今日は〇メートル歩くのが目標です」と、
    移動をリハビリの一環として説明し、
    目的意識を持ってもらいます。
  2. 歩行中の会話
    移動中は、
    K様のせっかちな意識をそらすため、
    K様の好きな話題を話しかけます。

    会話で注意を逸らし、
    急ぎ足になるのを防ぎます。
  3. 成功体験の共有
    トイレから戻った時に
    「今日も転ばずに歩けましたね!」と、
    安全に移動できたことを褒め、
    待つこと=安全な移動の成功」という
    ポジティブな意識付けを行います。

3. まとめ:迅速な対応と役割の提供

K様への対応は、
「転倒リスクの高さ」と
「せっかちな性格による切迫感」の
ジレンマとの闘いです。

「待って」と制止するのではなく、
「はい、すぐ行きます!」と迅速に対応し、
K様の「自分でやりたい」という意欲を
安全な役割やリハビリに変換することが、
事故を防ぐための鍵となります。


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この記事を書いた人

藤倉 健太のアバター 藤倉 健太 日本高齢者QOL学会 理事

・了德寺大学健康科学部整復医療トレーナー学科卒業
・柔道整復師/健康運動指導士/中学•高等学校教員免許
介護施設でのリハビリ(機能訓練)や体操指導を中心に、0〜106歳までの方々の健康を支えてきました。日本高齢者QOL学会の理事として、巷に溢れる健康情報を論文ベースにわかりやすく伝えていきます。

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