介護職員の腰痛予防に欠かせない
介護技術の1つに『ボディメカニクス』
がありますが聞いたことはありますか?
これは、
最小限の力で、最も安定した安全な介助
を可能にする、
人体の物理法則に基づいた技術です。
今回は、
このボディメカニクスの基本となる
8つの原則を一つひとつ確認し、
特に負担が大きい移乗介助の場面で、
どのように自分の腰を守るか、
具体的な実践ポイントをご紹介します。
ボディメカニクスを始めて聞く方も、
聞いたことはあるけど
現場でどうやって活用したらいいかわからない
という方にも、
ポイントを絞ってお伝えしていきます。
1. ボディメカニクス8原則の概要
ボディメカニクスは、
以下の8つの原則から成り立っています。
この原則を意識して介助を行うことで、
力任せの動作を排除し、
身体への負担を劇的に減らすことができます。
| 原則 | 内容 | 移乗介助での目的 |
| 1. 重心線を低くする | 安定性を高めるため、介助者の重心(おへそ周り)を低く保つ。 | 重心をさげることで、足やお尻の筋肉を効果的に使える。 |
| 2. 支持基底面を広くする | 両足と地面が作る面積を広げ、安定性を増す。 | 介助中のふらつきや転倒を予防する。 |
| 3. 利用者と密着させる | 介助者と利用者様の間に隙間を作らず、摩擦と重さの負荷を軽減する。 | 腰にかかる負荷を減らせる。テコの原理を最大限に活用できる。 |
| 4. 大きな筋肉を使う | 腕や背中の力ではなく、太ももやお尻などの大きな筋肉を使う。 | 腰や背中への過度な負荷避ける。 |
| 5. 水平に移動させる | 垂直に「持ち上げる」動作を避け、水平方向の力を使う。 | 重力に逆らう動作を減らし、必要な力を最小限にする。 |
| 6. テコの原理を活用する | 利用者様の体を小さくまとめ、介助者の肘や膝の支点を意識して行う。 | テコの原理を活用することで小さい力で介することができる。 |
| 7. 体のねじれを避ける | 腰への負担を避けるため、方向転換は足を意識して行う。 | ひねる動作は腰に負担がかかります。 腰への負担を避けるために、ひねる動きに注意します。 |
| 8. 動作を単純化・最小化する | 事前準備を徹底し、動作の回数を減らす。 | 介助時間を短縮し、疲労の蓄積を予防する。 |
2. 移乗介助で実践する6つの活用術
上記8原則を
移乗介助の具体的な場面に落とし込み、
腰を守るための実践的な活用術を
6つご紹介します。
活用術1:原則1・4 | 中腰を排除し、重心線と筋肉を活用する
腰痛の最大の原因である中腰姿勢を
徹底的に排除します。
- 膝を曲げる
介助の際は、
必ず膝を深く曲げ、
お尻を後ろに引くような姿勢で
重心を低くします。
背筋を真っ直ぐに保ち、
腰を丸めないことが重要です。 - 「スクワット」を意識
利用者様を抱え上げる際や
立ち上がりを促す際は、
腕力ではなく、太ももの力を使って、
スクワットをするような要領で
立ち上がりましょう。 - ベッドの高さを調整
ベッドや車椅子の高さは、
介助者が中腰にならず、
膝を軽く曲げた状態で手が届く高さに
必ず調整しましょう。
活用術2:原則2 | 足幅で安定性を確保する
不安定な姿勢での動作を防ぎ、
とっさの事態にも対応できるように
安定した体勢を作ります。
- 足を肩幅以上に広げる
両足を肩幅程度に広げ、
支持基底面を広く保ちます。 - 前後に開く(ランジ姿勢)
利用者様を立たせる場合は、
その方向に向かって、前後に足を広げます。
これは、体のねじれを防ぎ、
重心を移動させやすくする効果もあります。
活用術3:原則3・6 | 体の密着とテコの原理の活用
隙間をなくし、
小さな力で大きな力を生み出す
テコの原理を最大限に活用します。
- 隙間ゼロ
利用者様と介助者の間に隙間を作らないよう、
できる限り体を密着させます。
これにより、
余分な力を入れることなく、
安定して体を支えられます。 - 体の中心を細かく動かす
利用者様を一度に全て動かそうとせず、
上半身、お尻(骨盤)、下肢と、
体のパーツを細かく分けて
動かすことを意識しましょう。
活用術4:原則7 | 腰をひねらず、足で方向を変える
腰に一番負担がかかる
「ねじれ動作」を回避します。
- 足を軸に回転
車椅子へ方向転換する際、
腰だけをひねるのではなく、
足全体(支持基底面)で向きを変えます。
足踏みをするように、
細かくステップを踏んで方向転換しましょう。 - 目線と向きを統一
介助中は、目線、肩、腰、つま先を、
常に移動する方向に揃えるように意識します。
活用術5:原則5 | 垂直な「持ち上げ」を排除する
重力に逆らう非効率な動作を避け、
スムーズな介助を目指します。
- 水平移動を意識
移乗の際は、「上」ではなく
「斜め前」や「横」へ動かす力を意識します。 - 斜め前への誘導
立ち上がりを促す際、
上方向へ引っ張るのではなく、
介助者の体に預けるように斜め前へ誘導する
ことで、
利用者様も自然に立ち上がりやすくなります。 - スライディングシートの活用
水平移動を徹底するために、
福祉用具(スライディングボード/シート)を
積極的に活用しましょう。
活用術6:原則8 | 事前準備と動作の統一
介助中の無駄な動きや、
急な体勢変更による事故を防ぎます。
- 動線を確保
介助を始める前に、
ベッド周囲のコードや荷物を片付け、
安全な動線を確保します。 - 声かけと呼吸の統一
掛け声をしながら、
介助者と利用者様の呼吸と動きを合わせます。
動作のタイミングを統一することで、
不必要な力をかけず、
一連の流れでスムーズに介助を完了できます。
3. まとめ:8原則を習慣化し、長く働く体に
ボディメカニクス8原則は、
頭で覚えるだけでなく、
日々の実践で習慣化することが大切です。
「重心を低く」「密着させてねじらない」という
シンプルな行動を徹底するだけで、
あなたの腰への負担は劇的に軽減されます。
自分の体を守り、
利用者様にとっても安心できる、
安全で質の高い介助を追求していきましょう。
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