帰り際に金品を渡そうとする利用者様への対応5選

みなさんの施設では、
帰り際や送迎の際に

「今日のタクシー代です」
「コレあげる」

などと金品を渡そうとする利用者様は
いませんか?

お気持ちは嬉しいですが、
施設の規則でできない場合も
多いかと思います。

今回は、
なにかと金品を渡そうとする利用者様の
気持ちを尊重しながら、上手に対応する方法5選を
ご紹介していきます。


利用者様の基本情報

まずは、
今回の対応を検討するにあたっての
利用者様の基本情報を共有しておきましょう。

利用者様名:M様
年齢:85歳
性別:女性
既往歴:アルツハイマー型認知症・躁うつ病
    糖尿病・白内障
性格:基本的に穏やかでお話好き。
   意にそぐわないと感情的になる。
   世話を焼くことが好き。
課題:帰り際や送迎の際に、
   「今日のお礼」「家でたくさん採れたから」
   と金品を渡そうとしてくる。


実例1:感謝の気持ちは受け取り、「別の形」で代替案を提示する

金品を受け取れない理由をストレートに伝えることは、
M様の「お礼をしたい」という気持ちを否定し、
感情的になる可能性があるため避けましょう。

M様の気持ちを尊重し、
まずは感謝の気持ちを伝え
代替案をお伝えすることで
『お礼をしたい気持ち』を無下にせずに
対応することができます。

  1. 感謝を伝える
    「M様のそのお気持ちだけで、十分すぎるほど嬉しいです」
    と、金品には触れずに丁重に辞退し、
    まずは感謝の気持ちを受け取ります。
  2. 代替案の提示
    「M様のお気持ちは大切に心にしまいますので、
    代わりに、お手紙やメッセージカードとして
    気持ちを伝えてもらえませんか?」と、
    金品ではない形でお礼をする方法を提案します。
  3. 代替案の提示
    「そのお金は、M様がご家族と会う時に、
    一緒に美味しいお菓子を買うために
    大切にとっておいてくださいね」と、
    M様自身の楽しみのために使うことを勧めます。

実例2:ルールを伝える際、個人的な理由ではなく「公平性」を強調する

「私は受け取れません」と
職員個人の問題にするのではなく、
施設全体のルールであることを明確に伝え、
M様の自尊心を尊重しながら協力を求めます。

  1. ルールの明文化
    「大変ありがたいのですが、
    実は、皆さんを平等にサポートするため、
    私たち職員は個人的な贈り物を受け取れないという
    共通のルールになっています」と、
    理由を簡潔に伝える。
  2. 見本になってもらう
    「M様はいつも皆のお手本になってくださいます。
    このルールを守っていただけると、
    私たち職員も安心して他の方のお手伝いができます」と、
    M様を立てて協力を求める
  3. 理由を伝える
    「もし私が受け取ってしまうと、
    他の職員がM様を特別扱いしていると思われて、
    M様が施設で過ごしにくくなってしまうかもしれません」
    と、M様を守るためであることを伝えます。

実例3:「役割」の提供で「役に立ちたい」というニーズを満たす

M様の
「世話を焼きたい」「役に立ちたい」という意欲を、
金品を渡す行為ではなく、
施設内で役立つ役割として発揮してもらうことで、
気持ちを昇華させます。

  1. 共同作業へ誘う
    「M様にお礼をいただくのは恐縮ですが、
    M様には私たちがお礼を言いたいことがあります。
    帰りの準備を
    一緒に手伝っていただけませんか?」と、
    別の作業への協力を依頼する。
  2. 貢献感の提供
    金品を渡そうとしていた手を、
    「では、その手で
    このタオルを畳むのを手伝っていただけますか?
    この仕事はM様にしかできません」と、
    別の活動に切り替えさせる。
  3. 感謝の記録
    活動後には、
    「M様のおかげでスムーズに終われました!
    今日のM様のお手伝いのことは、しっかり記録に残して、
    皆にM様が頑張ってくださったことを伝えますね」と、
    口頭や記録でM様の功績を褒め、貢献感を満たします。

実例4:金品の現物を「一時的に預かる」形で対応する

金品が視界にあると、
渡そうとする行動が繰り返されるため、
紛失・盗難トラブルを防ぐためにも、
一時的にスタッフが管理します。

  1. 預かりの依頼
    金品を手に持っている場合は、
    「大変重要なものですので、
    また次回来られた時にすぐお渡しできるよう、
    私が大切にお預かりしますね」と伝え、
    辞退しつつ、管理の安全性を強調します。

  2. 場所の明確化
    「今からナースステーションの鍵のかかる金庫に入れておきますね。
    ご安心ください」と、
    安全な保管場所を具体的に伝えることで、
    M様の不安を取り除きます。

  3. 家族への報告
    預かった金品があることを、
    必ず介護記録に詳細に記載するとともに、
    その日のうちにご家族へ報告し
    預かりを継続するか、ご自宅へ持ち帰っていただくか
    指示を仰ぎます。

実例5:ご家族へ「感謝の気持ちの代弁」を依頼する

M様が「渡したい」という気持ちを
溜め込んで感情的になるのを防ぐため、
ご家族に協力してもらい、
間接的に感謝を受け止める機会を作りましょう。

  1. 気持ちの説明
    ご家族に、
    「M様が、日頃の感謝を金品で表そうとされています。
    これはM様の優しさや貢献意欲の表れなので、
    その気持ち自体を否定しないでほしい」と
    M様の心理を説明します。

  2. 伝言の依頼
    ご家族からM様へ、
    「施設の方から
    『M様の優しいお気持ちは十分届いています』と聞いたよ」
    などと伝えてもらい、
    間接的に感謝を受け止めてもらうよう依頼します。

  3. 代わりの贈り物
    ご家族に、金品ではなく
    M様が手作りした品(折り紙、編み物など)を
    職員へ渡す役割を担っていただくことで、
    M様の献身的な意欲を発揮できる場を設けてもらうよう
    提案します。

緊急時の対応と記録の徹底

M様が感情的になり、
金品を無理に押し付けようとしたり
、投げつけたりする
場合は、冷静に
「お気持ちは嬉しいですが、ルールなので受け取れません」
と伝え、その場から距離を取り、
他のスタッフに状況を伝えてすぐに応援を呼びます。

  • 記録の徹底
    いつ、何を、どのように渡そうとしてきたか
    そしてどのように対応し、
    現在どこに預かっているかを必ず記録し、
    職員間で共有しましょう。

まとめ

M様のように
「何かお礼をしたい」
と思われる方に対しては
その気持ちをまずはしっかりと
受け止めることが大切です。

M様のパターン以外にも
お金の支払いが不安で渡そうとする
利用者様もいるかと思います。

その場合は、
「毎月利用料金と一緒に
口座から引き落としになっています」
などのように
ちゃんと受け取っているという旨を伝え
安心感に繋がる声掛けをしましょう。

この記事を書いた人

藤倉 健太のアバター 藤倉 健太 日本高齢者QOL学会 理事

・了德寺大学健康科学部整復医療トレーナー学科卒業
・柔道整復師/健康運動指導士/中学•高等学校教員免許
介護施設でのリハビリ(機能訓練)や体操指導を中心に、0〜106歳までの方々の健康を支えてきました。日本高齢者QOL学会の理事として、巷に溢れる健康情報を論文ベースにわかりやすく伝えていきます。

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