生涯にわたる運動は高齢者の脳の健康を促進する

はじめに

生涯を通じて運動習慣のある人は高齢になっても脳の健康を維持できる可能性がある
そんな研究が昨年発表されました。

認知障害のない22歳から94歳の成人125人の心肺機能を測定し、
神経細胞を取り囲む脂肪の絶縁体層であるミエリンで構成されている脳の白質との関係を調べました。



ミエリンとは?

ミエリンとは神経線維を取り囲む髄鞘と呼ばれるもので、人間が年を取るにつれて減少する傾向があります。

このミエリンの役割は、
・脳によって生成される有毒な副産物などの損傷や害からニューロンを保護すること
・異なるニューロンと脳の領域間のコミュニケーションを促進すること

という2つの主要な機能を持っています。

今までも、有酸素運動が成人期を通じて脳の髄鞘形成を維持し、強化する可能性があるとの研究はありましたが、
その仕組みは不明でした。

どんな研究をしたのか

今回の研究では、最大酸素消費量(Vo2Max)を測定して心血管フィットネス レベルを追跡しました。
トレッドミルで走っている間、参加者は酸素と二酸化炭素の濃度を監視する機器をつけて測定しました。

ミエリン含有量を調べるために、研究者らは MRI を使用して被験者の脳のさまざまな領域をスキャンし、
ミエリン含有量に関する情報 (ミエリン水分率) を抽出しました。

被験者は、22 ~ 39 歳、40 ~ 59 歳、60 ~ 79 歳、80 ~ 94 歳の 4 つの年齢グループに分けられました。

この研究では、心血管の健康状態とミエリン含有量の間に強い相関関係があり、
VO2max が少しでも改善するとミエリン含有量が大幅に増加することがわかりました。

特に、40 歳以上の参加者はミエリン含有量が最も増加していました。
これは、若い成人が生涯を通じて心血管の健康を維持すれば、
中年期以降にも脳のミエリンを維持することができる可能性があります。

しかも、この研究の参加者はプロのアスリートではなく、単に定期的に運動する一般の人々であり、
運動の長さと強度はさまざまであったことも重要な発見です。

激しい運動をすることが大事なのではなく、心肺機能を高める運動(有酸素運動など)を
習慣にしておくことで脳の健康に繋がります。

この研究は、生涯にわたる運動が脳の健康を促進し、アルツハイマー病やパーキンソン病などの
神経変性疾患の発症リスクを減らす治療や予防に繋がる可能性を示しています。

※この研究結果は米国科学アカデミー紀要に掲載されました。

まとめ

今回の研究では、Vo2Maxつまり心肺機能が向上すると神経細胞の1つであるミエリン(髄鞘)含有量が
増えることがわかりました。

ミエリンがあることによって、神経を守ったり、神経の伝達をスムーズに行うことができます。
加齢によって壊れる(減少する)ミエリンを増加させる方法と可能性が発見されたことは、
アルツハイマー型認知症やパーキンソン病などといった脳の病気を予防したり治療したりする可能性があります。

ぜひ、心肺機能を維持・向上させるために定期的な運動を行っていきましょう!

参考文献・サイト

Faulkner ME, et al.
心肺機能の向上と加齢に伴う脳髄鞘形成の亢進の関連性を示す証拠
米国科学アカデミー紀要。2024年。電子出版8月19日。doi: 10.1073/pnas.2402813121。

https://www.nia.nih.gov/news/lifelong-exercise-promotes-brain-health-older-adults

この記事を書いた人

藤倉 健太のアバター 藤倉 健太 日本高齢者QOL学会 理事

・了德寺大学健康科学部整復医療トレーナー学科卒業
・柔道整復師/健康運動指導士/中学•高等学校教員免許
介護施設でのリハビリ(機能訓練)や体操指導を中心に、0〜106歳までの方々の健康を支えてきました。日本高齢者QOL学会の理事として、巷に溢れる健康情報を論文ベースにわかりやすく伝えていきます。

COMMENT

コメントする

CONTENTS