見すごされがちな主観的経済状況感とQOLの関係

2025年6月3日

多くの方が身体的健康や社会とのつながりに関心を向けがちですが、
「経済的にどの程度満たされていると感じるか」（主観的経済状況感）という、
個人の心の中にあるお金に対する感覚が、
その後のQOL（Quality of Life：生活の質）に
どれほど大きな影響を与えるかご存知でしょうか？

実際には生活に困窮していなくても、
「お金が足りないかもしれない」
「将来が不安だ」
といった主観的な経済観が、
高齢者の日々の生活に暗い影を落とし、
QOLを著しく低下させてしまうケースが少なくありません

今回は、
高齢期に主観的経済状況感が困窮していると感じる人が増えている現状と、
それがQOLに与える具体的な影響、
そして私たち一人ひとりができる対策について掘り下げていきます

1. なぜ高齢期に「主観的経済状況感の困窮」を感じるのか？

客観的な貯蓄額や年金収入が十分であても、
高齢者が主観的に経済的な不安を感じる背景には、
いくつかの要因が考えられます。

情報過多とメディアの影響:
将来の年金不安や医療費の増大に関する情報が
日々メディアから発信されることで、
漠然とした不安が増幅されやすくなります
ライフスタイルの変化と出費の増加
孫の誕生や旅行など、
現役時代とは異なるライフスタイルになった際に、
予期せぬ出費が増えることで、
お金の減り具合をより敏感に感じやすくなります
周囲との比較
他の高齢者の生活ぶりが見えやすくなった現代において、
自分と比較することで、経済的な不足感を感じてしまうこともあります
認知機能の変化
高齢期になると、将来の見通しを立てるのが難しくなったり、
漠然とした不安を解消するための情報収集が億劫になったりすることもあります
「お金＝安心」という価値観の根強さ
長年にわたって培われてきた「お金があることが安心」
という価値観が、
少なくなっていくお金に過剰な不安を感じさせる要因となることがあります

これらの要因が複合的に絡み合うことで、
実際の経済状況とは関係なく、「自分は経済的に困窮している」
という主観的な感覚が形成されてしまうのです

2. 主観的経済観の困窮がQOLに与える深刻な影響

主観的な経済状況感の困窮は、
高齢者のQOLに多岐にわたる悪影響を及ぼします

精神的健康への影響:
常に「お金がない」という不安に苛まれることで、
ストレスやうつ症状、不眠症などを引き起こしやすくなります

経済的な不安から、閉じこもりがちになったり、
人との交流を避けたりすることもあります
身体的健康への影響
経済的な不安から、食費を切り詰めたり、
病院への受診をためらったりすることがあります

これにより、
栄養状態が悪化したり、持病が悪化したりするなど、
身体的健康にも悪影響を及ぼす可能性があります
社会参加・活動の制限
経済的な不安から、趣味活動やボランティア活動、
友人との外食などを控えるようになります

これにより、
社会とのつながりが希薄になり、孤立感を深めることにもつながります
自己肯定感の低下
「自分は経済的に困っている」という感覚は、
自己肯定感を著しく低下させます。

これにより、
生きがいを感じにくくなったり、将来への希望を失ったりすることもあります
家族関係への影響
経済的な不安が、家族間のコミュニケーションに影響を与え
時には対立を生む原因となることもあります

このように、
主観的経済観の困窮は、
身体的・精神的健康から社会参加、自己肯定感、さらには家族関係に至るまで、
高齢者のQOLを包括的に低下させる要因となるのです

3. 高齢者の主観的経済観を改善し、QOLを高めるための対策

では、
この見過ごされがちな問題に対し、
私たちはどのようにアプローチすれば良いのでしょうか？

個人レベル、社会レベルの両面から対策を考えます

3-1. 個人でできる対策：心の豊かさを育むために

現状の資産状況の把握と「見える化」
　まずは、現在の貯蓄額、年金収入、毎月の支出などを正確に把握し、
家計簿アプリやスプレッドシートなどで「見える化」することが重要です

漠然とした不安を解消するためには、
具体的な数字として理解することが第一歩です
将来設計の具体的な検討とシミュレーション
専門家（ファイナンシャルプランナーなど）に相談し、
自身のライフプランに合わせた老後の生活費のシミュレーションを行うことで、
漠然とした不安が具体的な課題に変わり、対策を立てやすくなります
「お金を使うこと」への意識改革
不安からお金を使うことを過度に控えるのではなく、
心身の健康や社会参加に繋がる「賢いお金の使い方」を意識しましょう

例えば、
健康維持のための運動や、友人との交流、学びの機会など、
QOLを高めるための出費はむしろ積極的に検討する価値があります
趣味や社会活動への積極的な参加
お金以外の価値を見出すことが、心の豊かさを育む上で非常に重要です

地域活動、ボランティア、生涯学習など、
自分の興味関心に合わせた活動に積極的に参加することで、
生きがいや社会とのつながりを得られ、お金への執着を軽減できます
デジタルリテラシーの向上
スマートフォンやインターネットを活用することで、
情報収集の幅が広がり、不安を解消するための手段が増えます

また、
オンラインでの交流を通じて社会とのつながりを維持することも可能です
相談できる相手を見つける
家族、友人、地域包括支援センターの職員など、
信頼できる人に経済的な不安について話すことで、
気持ちが楽になったり、具体的なアドバイスを得られたりすることがあります

3-2. 社会全体で取り組むべき対策：高齢者を支える環境づくり

金融リテラシー教育の強化
高齢者向けの分かりやすい金融教育の機会を増やすことで、
資産形成や年金制度に対する理解を深め、
漠然とした不安を解消する手助けとなります

詐欺被害防止の観点からも重要です
地域コミュニティの活性化と居場所づくり
高齢者が気軽に集える場所、活動できる場所を増やすことで、
社会とのつながりを強化し、孤立を防ぎます

これは、
精神的健康の維持にも大きく寄与します
多様な就労機会の創出
働く意欲のある高齢者が、
それぞれの体力やスキルに合わせて働ける場を増やすことで、
経済的なゆとりだけでなく、社会貢献や自己肯定感の向上にもつながります
専門家へのアクセス支援の拡充
ファイナンシャルプランナーや社会福祉士など、
高齢者の経済的な問題や生活相談に応じられる専門家への
アクセスを容易にするための情報提供や支援体制を強化する必要があります
「高齢者の貧困」に対する社会の意識改革
客観的な数字だけでなく、
主観的な経済観の困窮が高齢者のQOLに与える影響について、
社会全体の認識を深めることが重要です

見えにくい不安にも目を向け、
包括的な支援体制を構築していく必要があります

まとめ：お金の不安を乗り越え、心豊かな高齢期を

高齢期における主観的経済観の困窮は、
多くの高齢者が抱える見過ごされがちな深刻な問題です

単なる「お金がない」という話ではなく、
それが引き起こす精神的・身体的健康の悪化、社会からの孤立、
自己肯定感の低下といったQOLへの負の影響は計り知れません

しかし、
この問題は、個人レベルでの意識改革と具体的な行動、
そして社会全体での支援体制の構築によって、必ず改善できるものです

高齢者の皆さんが、お金に対する過度な不安から解放され、
心身ともに健やかで、社会とつながりながら、
自分らしい豊かなQOLを送れるよう、
私たち一人ひとりがこの問題に真剣に向き合い、
行動していくことが求められています

お金はあくまで生活の手段であり、
人生の目的ではありません

心穏やかに、そして充実した高齢期を送るために、
今一度、ご自身の「主観的経済状況感」と向き合い、
できることから始めてみましょう！