「家に帰る」という言葉の裏側:帰宅願望の基礎知識と対応策

家に帰りたい」。認知症介護をしているご家族にとって、
この言葉は辛く、
対応に悩むことが多いのではないでしょうか。

特に、
が今いる場所が「家」であるにもかかわらず、
何度も「帰りたい」と訴える帰宅願望は、
介護者の心をかき乱し、大きなストレスとなります。

なぜ、
認知症帰宅願望を抱くのでしょうか?

それは、
単に「家に帰る」ことを意味しているのではなく、
もっと深い不安や混乱が隠されているからです。

このブログでは、
帰宅願望が起こる理由を理解し、
の気持ちに寄り添いながら、
穏やかに接するための具体的な対応策を解説します。


1. 認知症における「帰宅願望」とは?

帰宅願望は、
認知症周辺症状(BPSD)の一つです。

これは、
記憶障害によって、
今いる場所を「自分の家」と認識できなくなってしまう
ことが主な原因です。

  • 時間や場所の混乱
    認知症が進行すると、
    今がいつで、どこにいるのかという
    見当識が失われます。

    そのため、
    自分の家であっても
    「ここは知らない場所だ」と感じてしまい、
    「本当の家」に帰りたいと訴えるのです。

  • 過去の記憶に戻る
    過去の記憶にさかのぼり、
    自分が若かった頃の家や、
    子どもを育てていた頃の家を
    「本当の家」だと認識している場合があります。

  • 心の不安の現れ
    「家に帰りたい」という言葉の裏には、
    「ここは自分の居場所ではない」
    「自分はここにいてはいけない」といった
    強い不安や孤独感が隠されています。

    これは、
    認知症によって自分の役割や存在意義が
    揺らいでいる状態の現れでもあります。

帰宅願望は、
があなたを困らせようとしているわけではなく、
病気によって引き起こされる、
心からのSOSであることを理解することが、
対応の第一歩です。


2. 帰宅願望が起きた時のNG行動と適切な対処法

から「帰りたい」と訴えられた時、
どのように対応すればいいのでしょうか。

ついやってしまいがちなNG行動と、
の気持ちに寄り添う適切な対処法を知っておきましょう。

NG行動:否定する、正論で説得する

  • 「ここがあなたの家だよ」と否定する
    は、今いる場所が家ではないと心から信じています。

    そのため、
    あなたが事実を伝えても混乱するだけで、
    信頼関係を損なう原因になります。

  • 「もう夜だから帰れないよ」と正論で説得する
    論理的な説明は認知症の方には通じません。

    かえっては、
    「なぜ帰れないのか」とパニックになり、
    不安や怒りを増大させてしまいます。

適切な対処法:共感し、安心させる

  1. まずは共感する
    「家に帰りたいのですね、寂しいね」と、
    親の気持ちに寄り添い、不安を受け止めましょう。

    「家」という言葉を否定せず、
    の感情に共感することで、
    安心感を与えることができます。

  2. 目的を探る
    「家に帰りたい」という言葉の裏には、
    「夕食の準備をしなきゃ」
    「子どもを迎えに行かなきゃ」といった
    目的が隠されている場合があります。

    「どうして家に帰りたいのですか?」
    と優しく問いかけ、
    その目的を一緒に探してみましょう。

  3. 注意をそらす
    「夕飯の準備、一緒に手伝ってくれませんか?」
    「お茶でも飲みませんか?」と誘いかけ、
    別のことに注意を向けさせましょう。

    好きな音楽をかけたり、
    昔の写真を見せたりするのも有効です。

  4. 「一緒に探す」という態度を見せる
    「わかりました。では、一緒に帰りましょうか」と、
    一時的に親の言葉を受け入れ、
    一緒に家の中や外を少し歩いてみましょう。

    しばらく歩くと疲れて、
    「やっぱり家で休もうか」となることがあります。

  5. 安心できる環境を整える
    日頃から、が安心して過ごせる環境を整えましょう。

    好きなものを部屋に置く、
    なじみのある音楽をかける、
    など、にとっての
    居場所」を再認識してもらうことが大切です。

3. 介護施設での帰宅願望:専門家との連携

介護施設に入所している場合も、同様に帰宅願望が現れることがあります。

  • 施設のスタッフと連携する: 帰宅願望の頻度や、それが起こる時間帯などを施設のスタッフと共有し、対応策を一緒に考えましょう。
  • 面会のタイミングを工夫する: 施設に面会に行く際、が不安になってしまう場合は、面会時間を短くしたり、が落ち着いている時間帯に訪問するなど、工夫してみましょう。

まとめ

認知症帰宅願望は、
の深い不安や混乱から生まれる、
心からのSOSです。

「否定しない」「共感する」「安心させる」
という3つの原則を大切に、
親の言葉の裏にある本当の気持ちを探ることで、
親との間に信頼関係を築き、
穏やかな介護生活を送ることができるでしょう。

この記事を書いた人

藤倉 健太のアバター 藤倉 健太 日本高齢者QOL学会 理事

・了德寺大学健康科学部整復医療トレーナー学科卒業
・柔道整復師/健康運動指導士/中学•高等学校教員免許
介護施設でのリハビリ(機能訓練)や体操指導を中心に、0〜106歳までの方々の健康を支えてきました。日本高齢者QOL学会の理事として、巷に溢れる健康情報を論文ベースにわかりやすく伝えていきます。

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