フレイルの入り口は社会参加の機会減少から
はじめに
高齢化社会が進む現代、健康寿命を延ばし、充実した日々を送るための関心が高まっています。
その中で注目されているのが「フレイル」と呼ばれる状態です。
フレイルは加齢や慢性疾患に伴い心身機能が低下し、日常生活動作に支障をきたす一歩手前の状態を指します。
一方、社会参加は、高齢者の健康維持に重要な役割を果たすことが知られています。
では、フレイルと社会参加にはどのような関係があるのでしょうか?
本コラムでは、フレイルと社会参加の関係性、社会参加がもたらす効果について解説します。
フレイルとは?
フレイルは、「虚弱」と訳されることもあり、健康な状態と要介護状態の中間の状態です。
具体的には、以下の症状が複合的に現れてきます。
- 意欲の低下
以前楽しんでいた活動への興味が薄れる、
ボーっとしていることが増える など - 身体活動量の低下
日常生活での活動量が減る
外出の機会が減る など - 体重減少
理由のない体重減少
食欲が低下する など - 疲労感
日常生活で疲れやすい
少し動くだけで動悸(ドキドキ感)や息切れがする など - 握力低下
物を持つ力が弱くなる
よく物を落とす
ビンやペットボトルの蓋が開けにくくなる など
フレイルと社会参加の関係
身体機能が低下してフレイルに気がつくケースが多いですが、
実は、身体機能の低下はフレイルの最終段階で、入り口はもっと前、社会参加の機会が減ることにあります。
図 フレイル・ドミノ
出典:東京大学高齢社会総合研究機構・飯島勝矢:作図
東京大学 高齢社会総合研究機構 ・ 飯島勝矢ら 厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業)「虚弱・サルコペニアモデルを踏まえた高齢者食生活支援の枠組みと包括的介護予防プログラムの考案および検証を目的とした調査研究」(H26年度報告書より)
上記の図のように、外出機会の減少・一人暮らしなどの社会参加の機会が減っていくと、
生活のリズムが崩れやすくなります。
それに伴い、気分が落ち込みやすくなったり、意欲の低下などの精神的健康状態が悪化していきます。
すると、食欲の低下や簡単な食事(総菜パンやバナナ、ヨーグルト、野菜ジュースだけ)で済ませることが増えたり
会話の機会が減るため、口腔機能の低下や栄養状態の低下に繋がります。
その結果、身体機能を維持する栄養が不足したり、運動や活動の機会が減ることによって
日常生活を送ることが困難になるくらいに身体機能が低下してしまいます。
これが、フレイルの一連の流れになります。
運動習慣があり社会参加をしていない人よりも、
運動は苦手だけれども趣味や友人との外出を楽しんでいる社会性の高い人の方が
フレイルのリスクが低かったというケースもあるくらいに、社会参加は大切です。
社会参加がもたらす効果
社会参加がもたらす効果は、フレイル予防だけでなく、高齢者のQOL(Quality of Life)の向上にもつながります。
- 人間関係の充実
様々な人と交流することで、人間関係が豊かになり孤独感を解消できます。 - 生きがい発見
新しい趣味や活動を見つけることで、人生に生きがいを感じることができます。 - 地域社会への貢献
ボランティア活動などを通じて地域社会に貢献することで、自己実現感を得ることができます。
WHOは、QOLを
「個人が生活する文化や価値観のなかで、目標や期待、基準または関心に関連した自分自身の人生の状況に対する認識」と定義しています。
つまり、病気や怪我があっても「自分は幸せ」と思える状態であればQOLが高いということです。
逆に、病気などがなくても「自分は不幸だ」と思う状態であれば、QOLは低いということになります。
人間は社会性の高い生き物なので、人や社会との繋がりの中で幸福感を得られやすくなっています。
新型コロナウイルスなどの感染症の影響で、人との関わりが希薄になりがちですが、
対策を取りながら人や社会との関係を持ち続けることが重要です。
まとめ
フレイルは、早期に適切な対策を行うことで、進行を遅らせたり、改善したりすることが可能です。
社会参加はフレイル予防だけでなく、高齢者のQOL向上にもつながる有効な手段の一つです。
高齢者が安心して社会参加できる環境づくりは、地域社会全体で取り組むべき課題です。
バリアフリー化や多世代交流など、高齢者だけでなく、たくさんの人にメリットがある方法を模索しながら
社会全体でQOL向上やフレイル予防を考えていくことが大切です。
参考文献・サイト
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/tyojyu-shakai/koreisha-qol.html
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